トライアスロンへの道 第4話 プールで何度も足を着く

トライアスロンへの道

いよいよスタートした。

私は泳ぎ始めた。

……いや、泳ぎ始めたという表現が正しいのかどうか、今となってはよく分からない。

とにかく手を動かした。

足も動かした。

顔を水につけて、何とか前へ進もうとした。

そして数メートル。

苦しい。

立つ。

また泳ぐ。

数メートル。

立つ。

また泳ぐ。

立つ。

立つ。

また立つ。

これを何度繰り返したことだろう。

練習なら、それでもいい。

市民プールで一人で練習しているのなら、

「今日は10メートル進んだ!」

でも構わない。

しかし、今は違う。

これは一応、レースなのだ。

「体験会」という名前にはなっているが、参加している人たちは普通に泳げる。

私以外は。

周りを見ると、みんなスイスイ進んでいる。

私だけが、数メートル進んでは立っている。

そして、立った状態でハァハァ言って休んで、また泳ぐ。

当然、前にはなかなか進まない。

いや、正直に言えば――

歩いた方が明らかに速い。

水の中を歩けば、もっと簡単に前へ進める。

でも、それでは水泳にならない。

だから私は、一応「泳いでいるような形式」をする。

腕を回す。

足をバタバタさせる。

数メートル進む。

苦しくなる。

立つ。

また泳ぐ。

……何をやっているんだ、俺は。

自分でもそう思う。

しかも、周りには人がいる。

泳げる人たちが、私の横をどんどん追い抜いていく。

私は必死に泳いでいる。

いや、泳いでいるつもりだ。

でも、実際にはほとんど進んでいない。

顔から火が噴き出しそうなくらい恥ずかしかった。

「この人、何しに来たんだ?」

そう思われているに違いない。

もう帰りたい。

さっき会場に来た時にも帰りたかったが、今度は本気で帰りたかった。

しかし、途中で帰ることもできない。

私はまた泳ぐ。

数メートル進む。

立つ。

そしてまた泳ぐ。

その繰り返しだった。

たぶん、何十回も立ったと思う。

それでも、周りの人たちは嫌な顔一つしなかった。

むしろ、

「頑張って!」

「大丈夫!」

そんな声を掛けてくれる。

これが本当にありがたかった。

でも、ありがたいと思うほど、申し訳ない気持ちにもなった。

だって私は、みんなのペースを完全に乱している。

一人だけ、とんでもなく遅い。

しかも、数メートルごとに立っている。

今考えてみれば、なんと迷惑な選手だったのだろうと思う。

それでも誰一人として文句を言わない。

みんな最後まで応援してくれた。

私は恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになりながら、それでも何とか前へ進んだ。

泳ぐ。

立つ。

また泳ぐ。

立つ。

それでも少しずつゴールに近づいている。

「800mって、こんなに長いのか……」

数字だけを見た時にも絶望したが、実際に水の中に入ってみると、その意味がよく分かった。

800mという数字は、泳げない人間にとっては本当に途方もない。

日が暮れるぞ、思いながらも私は進んだ。

正確には、

何度も立ちながら、泳いだふりをしながら、なんとか前へ進んだ。

そして、ようやく終わりが見えてきた。

「もう少し……」

周りの人たちに励まされながら、私は最後まで進んだ。

泳げたとは、とても言えない。

速くはないし、格好よくもない。

むしろ、かなり情けないし、恥ずかしい。

前の人が上がって何分も経ってから断トツの最下位が私。

それでも――

私は800mを終えた。

この時の私はまだ、「トライアスロンをやる人」ではなかった。

ただ、泳げないのに水の中へ入ってしまった男が、周りの人たちに助けてもらいながら、何とか最後までたどり着いただけだった。

でも、この日ひとつだけ分かったことがある。

泳げない。

確かに泳げない。

でも――

泳げなくても、とりあえず前には進めるらしい。

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