トライアスロンへの道 第5話 もうコリゴリ

トライアスロンへの道

何とか800mの水泳を終えた。

いや、泳いだというより、コースの途中で何十回も途中で立ちながら、周りの人たちに励ましてもらい、どうにかゴールまでたどり着いた800mだった。

「もう十分だろう……」

正直、そんな気分だった。

ところが、まだ終わりではない。

次は自転車である。

距離は20km。

水泳の800mに比べれば、20kmなんてたいしたことがないように思える。

私はランナーだから、自転車もそれなりにできるだろう。

しかも、事前にYさんの知り合いの自転車店からクロスバイクを借りて、一度だけ15kmほど乗っている。

その時は結構楽しかった。

だから、

「自転車なら、まあ何とかなるだろう」

と思っていた。

ところが、自転車置き場を見て、またしても私は固まった。

ロードバイクばかりなのだ。

しかも、いかにも速そうなバイクが並んでいる。

細いタイヤ。

ドロップハンドル。

見るからに本格的。

その中に、私のクロスバイクが一台。

多少は頑張っているように見えなくもないが、どう見ても雰囲気が違う。

「これ、本当に体験会なのか?」

またしても、そんな疑問が頭に浮かんだ。

私が想像していた「体験会」というのは、

「初めての人も一緒に、ゆっくり楽しみましょう」

みたいな感覚だった。

ところが実際にいるのは、どう見ても自転車に慣れている人たち。

水泳でも私以外は普通に泳いでいた。

そして今度は自転車まで本格的。

私は完全に場違いだった。

それでもスタートするしかない。

クロスバイクにまたがって、みんなについて走り始めた。

最初はそれなりについていけた。

「おっ、意外といけるじゃん」

そう思った。

でも、そんな甘い考えは長く続かなかった。

前の人たちは、どんどん先へ行く。

私もペダルを踏む。

それでも離される。

「待ってくれ~」

と言いたくなるが、もちろんそんなことを言っている場合ではない。

必死にペダルを踏んだ。

とはいえ、水泳ほどの絶望感はなかった。

何しろ自転車は進む。

ちゃんとペダルを回せば前へ進む。

水泳のように、

「コースの途中で立ち止まる」

なんてことはまずない。

それだけでもありがたい。

何とか20kmを走り終えた。

そして最後はランニング。

距離は5km。

これは私の得意分野だ。

つい最近フルマラソンで4時間を切ったばかり。

5kmなら、普段の練習でも普通に走っている距離だ。

「やっと俺の出番か」

そう思った。

ところが――

5kmなんて、あっという間だった。

マラソンランナーからすると、5kmでは体が温まってきた頃である。

「さあ、ここから……」

と思ったら、もう終わり。

もちろん体験会だから、それでいい。

でも、私の中では、

「これで終わり?」

という感じだった。

水泳であれだけ苦労したのに。

自転車では周りについていくのに必死だったのに。

最後のランニングは、走り出したと思ったら終わってしまった。

何だか妙な一日だった。

周りの人たちは、それなりにレースとして楽しんでいたようだった。

速さを競い、順番を気にしながら走っている。

でも、私にとっては全く違った。

私はレースをしたわけではない。

本当に「体験」しただけだった。

泳げない。

自転車も初心者。

ランだけは走れる。

そんな男が、なぜか3種目を続けてやった。

そして終わってみれば――

「疲れた……」

というより、

「もう、いいかな」

だった。

特に水泳が大変だった。

800mという数字を見て絶望し、実際に泳いでみたら途中で何十回も立った。

周りの人たちには迷惑を掛けた。

自転車では本格的なロードバイクに囲まれ、クロスバイクで必死についていった。

最後のラン5kmは、得意種目だったのであっという間。

これが私にとっての初めてのトライアスロン体験だった。

そして、体験を終えた私は思った。

「もう、トライアスロンはコリゴリだ。」

これが、その時の正直な感想だった。

まさか、この翌年。

自分がトライアスロンの大会に出ることになるなんて。

ましてや、この日とは比べものにならない距離を泳ぎ、自転車に乗り、最後にフルマラソンを走ることになるなんて。

この時の私は、知るはずもなかった。

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