何とか800mの水泳を終えた。
いや、泳いだというより、コースの途中で何十回も途中で立ちながら、周りの人たちに励ましてもらい、どうにかゴールまでたどり着いた800mだった。
「もう十分だろう……」
正直、そんな気分だった。
ところが、まだ終わりではない。
次は自転車である。
距離は20km。
水泳の800mに比べれば、20kmなんてたいしたことがないように思える。
私はランナーだから、自転車もそれなりにできるだろう。
しかも、事前にYさんの知り合いの自転車店からクロスバイクを借りて、一度だけ15kmほど乗っている。
その時は結構楽しかった。
だから、
「自転車なら、まあ何とかなるだろう」
と思っていた。
ところが、自転車置き場を見て、またしても私は固まった。
ロードバイクばかりなのだ。
しかも、いかにも速そうなバイクが並んでいる。
細いタイヤ。
ドロップハンドル。
見るからに本格的。
その中に、私のクロスバイクが一台。
多少は頑張っているように見えなくもないが、どう見ても雰囲気が違う。
「これ、本当に体験会なのか?」
またしても、そんな疑問が頭に浮かんだ。
私が想像していた「体験会」というのは、
「初めての人も一緒に、ゆっくり楽しみましょう」
みたいな感覚だった。
ところが実際にいるのは、どう見ても自転車に慣れている人たち。
水泳でも私以外は普通に泳いでいた。
そして今度は自転車まで本格的。
私は完全に場違いだった。
それでもスタートするしかない。
クロスバイクにまたがって、みんなについて走り始めた。
最初はそれなりについていけた。
「おっ、意外といけるじゃん」
そう思った。
でも、そんな甘い考えは長く続かなかった。
前の人たちは、どんどん先へ行く。
私もペダルを踏む。
それでも離される。
「待ってくれ~」
と言いたくなるが、もちろんそんなことを言っている場合ではない。
必死にペダルを踏んだ。
とはいえ、水泳ほどの絶望感はなかった。
何しろ自転車は進む。
ちゃんとペダルを回せば前へ進む。
水泳のように、
「コースの途中で立ち止まる」
なんてことはまずない。
それだけでもありがたい。
何とか20kmを走り終えた。
そして最後はランニング。
距離は5km。
これは私の得意分野だ。
つい最近フルマラソンで4時間を切ったばかり。
5kmなら、普段の練習でも普通に走っている距離だ。
「やっと俺の出番か」
そう思った。
ところが――
5kmなんて、あっという間だった。
マラソンランナーからすると、5kmでは体が温まってきた頃である。
「さあ、ここから……」
と思ったら、もう終わり。
もちろん体験会だから、それでいい。
でも、私の中では、
「これで終わり?」
という感じだった。
水泳であれだけ苦労したのに。
自転車では周りについていくのに必死だったのに。
最後のランニングは、走り出したと思ったら終わってしまった。
何だか妙な一日だった。
周りの人たちは、それなりにレースとして楽しんでいたようだった。
速さを競い、順番を気にしながら走っている。
でも、私にとっては全く違った。
私はレースをしたわけではない。
本当に「体験」しただけだった。
泳げない。
自転車も初心者。
ランだけは走れる。
そんな男が、なぜか3種目を続けてやった。
そして終わってみれば――
「疲れた……」
というより、
「もう、いいかな」
だった。
特に水泳が大変だった。
800mという数字を見て絶望し、実際に泳いでみたら途中で何十回も立った。
周りの人たちには迷惑を掛けた。
自転車では本格的なロードバイクに囲まれ、クロスバイクで必死についていった。
最後のラン5kmは、得意種目だったのであっという間。
これが私にとっての初めてのトライアスロン体験だった。
そして、体験を終えた私は思った。
「もう、トライアスロンはコリゴリだ。」
これが、その時の正直な感想だった。
まさか、この翌年。
自分がトライアスロンの大会に出ることになるなんて。
ましてや、この日とは比べものにならない距離を泳ぎ、自転車に乗り、最後にフルマラソンを走ることになるなんて。
この時の私は、知るはずもなかった。
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