トライアスロンへの道 第24話 トランジション

トライアスロンへの道

2,000メートルを泳ぎ終わった。

53分。

ようやく海から上がった。

「泳げた……」

と思ったのも束の間。

ここから自転車に乗らなければならない。

トライアスロンでは、泳いだ後に自転車へ移るまでの間にも、やることがたくさんある。

これがトランジションだ。

前日までに、何をするのかは一応教えてもらっていた。

ウェットスーツを脱ぐ。

バイクジャージを着る。

ヘルメットをかぶる。

シューズを履く。

サングラスをかける。

そして自転車を押してスタートラインまで歩く。

頭では分かっている。

ただ、問題が一つあった。

私は今、

2,000メートル泳いだ直後である。

息が苦しい。

身体も重い。

酸欠状態で、まともに考える余裕などない。

その状態で、ウェットスーツを脱ぎ始めた。

これが、なかなか脱げない。

フルオーダーのウェットスーツが身体にぴったり張り付いている。

腕を抜く。

腰まで下ろす。

一度引っ張る。

「うっ……」

苦しい。

息を整えながら、必死に脱いでいく。

そして私は、ウェットスーツの下にバイクパンツを履いていた。

そのまま自転車に乗れるようにするためだ。

ところが――

ウェットスーツを引っ張った瞬間、

バイクパンツまで一緒に脱げてしまった。

「えっ?」

もう一度やる。

やっぱり脱げる。

「ちょ、ちょっと待って……」

ウェットスーツだけ脱ぎたい。

でもパンツまでついてくる。

原因はサスペンダーだった。

ウェットスーツを脱ごうとすると、バイクパンツのサスペンダーまで一緒に引っ張られてしまう。

そして、バイクパンツというのは、もちろん素肌に履くものである。

ここから先は、

ご想像にお任せします。

とにかく、トランジションエリアで私は、かなり情けない格好になっていた。

周りの選手は、どんどん準備を終えていく。

ウェットスーツを脱ぐ。

ヘルメットをかぶる。

自転車を押していく。

みんな慣れている。

その横で私は、息を切らしながら、

「なんでこうなるんだ……」

とパンツと格闘している。

ようやくウェットスーツとパンツを分離した。

バイクジャージを着る。

ヘルメットをかぶる。

シューズを履く。

サングラスをかける。

ようやく終わった。

「よし、自転車だ!」

自転車スタートのところまで行く。

ここまで来れば、あとは乗って走り出すだけ。

そう思った。

ところが――

自転車を押しても、

動かない。

「あれ?」

もう一度押す。

カチャカチャ、ガチャガチャと変な音がする。

後輪のあたりがおかしい。

私は自転車を見た。

どうやら後輪が、きちんと収まっていない。

自転車を預けるときに、何かの拍子で少しずれてしまったらしい。

「えー……」

泳ぎ終わって苦しい。

パンツまで脱げた。

そして今度は自転車。

もう泣きたくなってきた。

しかし、ここで自転車を動かさなければ、レースは終わりだ。

よく見ると後輪が外れていた。

一度外して、きちんと入れ直す。

ガチャッ。

もう一度押してみる。

今度は動いた。

「動いた……」

本当にホッとした。

とにかく、今は早く出発しなければならない。

自転車を押していく。

周りの選手は、とっくに出発している。

私はかなり遅れている。

ようやく乗車位置まで来た。

自転車にまたがる。

ペダルを踏む。

今度こそ、

走り出した。

「よし!」

2,000メートルの海を泳いだ。

トランジションでパンツまで脱げた。

自転車の後輪まで動かなかった。

それでも、なんとかスタートできた。

しかし、この時の私はまだ知らなかった。

ここから始まるのが、

約200キロの自転車なのだということを。

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