2,000メートルを泳ぎ終わった。
53分。
ようやく海から上がった。
「泳げた……」
と思ったのも束の間。
ここから自転車に乗らなければならない。
トライアスロンでは、泳いだ後に自転車へ移るまでの間にも、やることがたくさんある。
これがトランジションだ。
前日までに、何をするのかは一応教えてもらっていた。
ウェットスーツを脱ぐ。
バイクジャージを着る。
ヘルメットをかぶる。
シューズを履く。
サングラスをかける。
そして自転車を押してスタートラインまで歩く。
頭では分かっている。
ただ、問題が一つあった。
私は今、
2,000メートル泳いだ直後である。
息が苦しい。
身体も重い。
酸欠状態で、まともに考える余裕などない。
その状態で、ウェットスーツを脱ぎ始めた。
これが、なかなか脱げない。
フルオーダーのウェットスーツが身体にぴったり張り付いている。
腕を抜く。
腰まで下ろす。
一度引っ張る。
「うっ……」
苦しい。
息を整えながら、必死に脱いでいく。
そして私は、ウェットスーツの下にバイクパンツを履いていた。
そのまま自転車に乗れるようにするためだ。
ところが――
ウェットスーツを引っ張った瞬間、
バイクパンツまで一緒に脱げてしまった。
「えっ?」
もう一度やる。
やっぱり脱げる。
「ちょ、ちょっと待って……」
ウェットスーツだけ脱ぎたい。
でもパンツまでついてくる。
原因はサスペンダーだった。
ウェットスーツを脱ごうとすると、バイクパンツのサスペンダーまで一緒に引っ張られてしまう。
そして、バイクパンツというのは、もちろん素肌に履くものである。
ここから先は、
ご想像にお任せします。
とにかく、トランジションエリアで私は、かなり情けない格好になっていた。
周りの選手は、どんどん準備を終えていく。
ウェットスーツを脱ぐ。
ヘルメットをかぶる。
自転車を押していく。
みんな慣れている。
その横で私は、息を切らしながら、
「なんでこうなるんだ……」
とパンツと格闘している。
ようやくウェットスーツとパンツを分離した。
バイクジャージを着る。
ヘルメットをかぶる。
シューズを履く。
サングラスをかける。
ようやく終わった。
「よし、自転車だ!」
自転車スタートのところまで行く。
ここまで来れば、あとは乗って走り出すだけ。
そう思った。
ところが――
自転車を押しても、
動かない。
「あれ?」
もう一度押す。
カチャカチャ、ガチャガチャと変な音がする。
後輪のあたりがおかしい。
私は自転車を見た。
どうやら後輪が、きちんと収まっていない。
自転車を預けるときに、何かの拍子で少しずれてしまったらしい。
「えー……」
泳ぎ終わって苦しい。
パンツまで脱げた。
そして今度は自転車。
もう泣きたくなってきた。
しかし、ここで自転車を動かさなければ、レースは終わりだ。
よく見ると後輪が外れていた。
一度外して、きちんと入れ直す。
ガチャッ。
もう一度押してみる。
今度は動いた。
「動いた……」
本当にホッとした。
とにかく、今は早く出発しなければならない。
自転車を押していく。
周りの選手は、とっくに出発している。
私はかなり遅れている。
ようやく乗車位置まで来た。
自転車にまたがる。
ペダルを踏む。
今度こそ、
走り出した。
「よし!」
2,000メートルの海を泳いだ。
トランジションでパンツまで脱げた。
自転車の後輪まで動かなかった。
それでも、なんとかスタートできた。
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
ここから始まるのが、
約200キロの自転車なのだということを。
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