ようやく自転車が動き出した。
私はペダルを踏んだ。
「やっと出発できた……」
振り返る。
誰もいない。
……いや、正確には、かなり後ろのほうに選手がいる。
でも、前にはほとんどいない。
まあ、当然だ。
泳ぎで遅れた。
その後、ウェットスーツを脱ぐのにも手間取った。
パンツまで脱げた。
さらに自転車の後輪まで動かなかった。
トランジションだけで、かなり時間を使っている。
でも、スタートして間もなく、左側のペダルが気になった。
クリートを外す。
*クリートとはバイクシューズに固定されている金具でペダルを固定する形状になっている。
もう一度はめる。
カチッ。
「ちょっと緩いな……」
そう思った私は、ペダルの固定を少し強くした。
これが後になって、思わぬことにつながるのだが、この時はそんなことを知るはずもない。
おそらく私は、
この時点でほぼ最下位だった。
200キロ走る練習だってしてきた。
だったら、ここから追い上げればいい。
そう思った。
「よし、ここからだ」
自転車を走らせる。
増毛から留萌方面へ向かう。
最初は軽快だった。
海岸線を走る。
風を受けながら、自転車が進んでいく。
「あれ?」
意外と気持ちいい。
もちろん、周りの選手はどんどん先へ行っている。
でも、自分のペースなら走れる。
これまで練習してきた距離を考えれば、200キロだって何とかなる。
そう思えてきた。
すると、前方に一人の選手が見えた。
「おっ!」
少しずつ近づいていく。
抜いた。
さらに前に、また一人いる。
また抜いた。
「おお、追いついてきた!」
さっきまで最下位だと思っていたが、少しずつ順位を上げている。
これはいける。
そんな気持ちになってきた。
これまでの練習で慣れてきたペダルを回す。
呼吸する。
景色を見る。
海岸線を進む。
さっきまでの緊張も、少しずつ消えてきた。
そして、また前の選手に追いついた。
一人抜く。
また一人。
「おお、いけるじゃないか」
最下位からの逆襲である。
……と思った。
ところが、この時点で私はまだ知らなかった。
今から走る距離が、
200キロ以上あることを。
しかも、まだスタートしてからほんの少ししか進んでいない。
「追い上げる」と言っても、先はあまりにも長い。
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