増毛をスタートして、ようやく自転車が走り出した。
スタート直後は、ほぼ最後尾。
スイムで遅れ、トランジションでも遅れ、自転車の後輪まで外れていたのだから、これは仕方がない。
「まあ、ここからだ」
そう思ってペダルを踏んだ。
増毛から留萌へ向かう。
海岸線を走っている。
天気は小雨だった。
でも、走り出してみると、意外と気持ちがいい。
スイムであれだけ苦しんだ後なので、自転車に乗った途端に呼吸が楽になった。
「ああ、自転車って楽だな」
そんなことを思った。
もちろん、まだ始まったばかりである。
ここで「楽だ」と思っていること自体、後から考えればかなり危ない。
しばらくすると、前に選手が見えてきた。
少しずつ近づく。
追いつく。
抜く。
また前にいる。
また追いつく。
また抜く。
さっきまで最下位だったはずなのに、少しずつ前の選手に追いついている。
これは気分がいい。
「おっ、俺、結構走れるじゃないか」
などと思ってしまう。
留萌に入る。
ここには、事前に先輩から注意されていた場所があった。
途中にある、直角に近いカーブだ。
「ここは危ないぞ」
と聞いていた。
毎年のように転倒する選手がいるらしい。
そんな場所で、私はもちろん攻めるわけがない。
十分にスピードを落として、慎重に曲がる。
無事通過。
「よし」
自転車に乗っているだけなのに、ちょっとした達成感がある。
その先も海沿いを北へ進む。
留萌を抜け、小平方面へ。
練習では、30km、40km走るだけでも大変だった。
それが今日は、もう何十kmも走っている。
しかも、まだ身体は動いている。
ロードバイクにも少し慣れてきた。
以前はペダルを「押す」ことしか考えていなかった。
先輩に、
「ペダルは押すんじゃなくて回すんだ」
と言われて、ようやく少し意味が分かってきた。
円を描くようにペダルを回す。
その感覚で走っていると、長い距離でもそれほど苦にならない。
やがて最初のエイドステーションが見えてきた。
ここで、私は自転車を止めた。
大会の説明では、ボトルを受け取って、そのまま走りながら飲むこともできる。
しかし私は、そんな器用なことができない。
止まる。
降りる。
受け取る。
飲む。
食べる。
そしてまた乗る。
周りの選手はどんどん先へ行く。
せっかく何人か抜いたのに、また抜かれる。
でも、もう気にしない。
200kmもあるのだ。
数分くらいどうってことない。
それよりも、エイドで受け取ったサンドイッチがうまい。
「これはうまいなあ」
泳いだ後、自転車を何十kmも走った身体には、サンドイッチがごちそうだった。
食べ終わって、再び自転車に乗る。
小平を抜け、苫前方面へ。
海がずっと左側に見えている。
自転車で走っていると、景色がどんどん後ろへ流れていく。
練習とは違う。
今日は大会なので、道路沿いに人がいる。
声をかけてもらえる。
「頑張れ!」
「ありがとうございます!」
そんなやり取りをしながら走る。
そして、さらに北へ。
苫前を過ぎ、羽幌方面へ向かう。
ここまで来ると、スタート直後の緊張感はすっかりなくなっていた。
スイムであれほど怖かった海も、今は自転車から眺めているだけなら気持ちがいい。
「トライアスロンって、結構面白いな」
そんなことまで思っていた。
やがて羽幌付近。
沿道からも声がかかる。
スタートしてからかなり時間が経っている。
時計を見る。
もう昼近くになっていた。
そして、ふと距離を考える。
ここまでで、およそ100km。
200kmのちょうど半分だ。
「半分まで来たか」
これは大きかった。
朝、増毛で海に入ったときには、
「本当に2,000m泳げるのか?」
と思っていた。
そのスイムを終え、パンツまで脱ぎ、後輪まで外れた。
それでも今、自転車で100km近くまで来ている。
しかも、まだ走れる。
身体も、それほど苦しくない。
「このまま行けるんじゃないか?」
少し、そんな気持ちになっていた。
ただ、ここで一つ気になった。
思った以上に汗をかいている。
気温はそれほど高くない。
なのに、身体はかなり暑い。
「ちょっとペース速いのかな?」
と思った。
何しろ、この先まだ100km近くある。
そして、自転車が終わったらランニングだ。
42km近く走る。
そこまで考えると、
「まあ……そのときになったら考えよう」
となる。
何せ、初めてのロングトライアスロン。
先のことを考えても、何が正解なのか分からない。
とりあえず、
今は自転車が楽しい。
それだけである。
私はまたペダルを回した。
羽幌を過ぎ、さらに北へ。
ここから先、まだまだ自転車は続く。
そして、この先で私は初めて、
「日本海を自転車で走る」ということの意味を思い知らされることになる。
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