トライアスロンへの道 第27話 ハンガーノック

トライアスロンへの道

羽幌を過ぎたあたりからだったと思う。

日本海からの風が、左側からまともに吹いてきた。

最初は、

「風が強いな」

くらいだった。

ところが、走っても走っても風が止まらない。

ペダルを回している。

確かに回している。

でも、なかなか前に進まない。

海岸線なので、風を遮るものもほとんどない。

このあたりから、記憶がかなり薄くなっている。

どこを走ったのか。

何を考えていたのか。

正直、あまり覚えていない。

ただ、風が強かったこと。

そして、ひたすら前に進もうとしていたこと。

それだけは覚えている。

当時の私は、ロングトライアスロンの経験なんてない。

自分の身体が今どういう状態なのかも、よく分かっていなかった。

疲れているのか。

エネルギーが足りないのか。

風に負けているだけなのか。

そんなことを判断する知識もなかった。

今になって振り返ると、

「あれは、ハンガーノックを何回も繰り返していたんじゃないか?」

と思う。

急に力が出なくなる。

身体が重くなる。

何となくぼんやりする。

それでも少し走っていると、また何とか動く。

そして、また苦しくなる。

今なら、そんな身体の変化をある程度は分かる。

でも、このときは分からない。

ただ、

「きついな」

くらいだったと思う。

そして、止まるという発想もなかった。

自転車を降りてしまったら、もう走り出せないような気がする。

だから、とにかくペダルを回す。

一回。

また一回。

それだけだった。

いつの間にか、周りの選手も少なくなっていた。

前にもいない。

後ろにもいない。

スタート直後は、抜いたり抜かれたりしていた。

それが、いつの間にか一人になっていた。

海岸線を一人で走る。

左から風が吹く。

身体は重い。

それでも進む。

少しずつでも進む。

それなら、それでいい。

「とにかく前へ行こう」

そんなことだけを考えていたような気がする。

そして、ようやく幌延まで来た。

ここで折り返す。

しかし、折り返したからといって、ゴールが近いわけではない。

まだ先がある。

天塩方面へ戻る。

その先を走って、ようやくバイクのゴールへ戻っていく。

「まだこんなにあるのか……」

正直、そう思った。

それでも、まだ午後だった。

空は明るい。

夜ではない。

だから、走らなければならない。

ここで止まる理由はない。

いや、身体としては止まりたかったのかもしれない。

でも、まだ明るい。

道路も見えている。

だったら進める。

そんな感じだった。

何km走ったのかも、よく分からなくなってくる。

身体のあちこちが痛い。

それでもペダルを回す。

そして、ようやく残り20kmほどになった。

普通なら、

「あと20kmか。もう少しだ」

となるところだろう。

でも、このときは違った。

20kmもある。

もう身体の中が、ほとんど空っぽだった。

本当にバイクを降りてしまいたい。

そんな気持ちも出てきた。

この先、本当に走れるのか。

そもそも、あと20kmも自転車に乗れるのか。

不安だった。

それでも、またペダルを回す。

痛い。

苦しい。

身体が重い。

それでも回す。

一回、一回、ペダルを回す。

ここまで来たら、もう「速く走ろう」とは思っていなかったと思う。

ただ、

バイクのゴールまで行く。

それだけだった。

そして、その頃には左膝の裏にも、はっきりとした痛みが出ていた。

あと20km。

この20kmを終えれば、自転車は終わる。

でも、その先には、

42km近いランニングが待っている。

そう考えると、

「俺、本当に走れるのか?」

という不安しかなかった。

それでも、自転車はまだ終わっていない。

だから、とにかく前へ進んだ。

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