ロードバイクを手に入れた。
これでいよいよトライアスロンの練習ができる。
……と思った。
ところが、ロードバイクが完成した頃には、北海道はすっかり冬だった。
雪が積もっている。
当然、ロードバイクには乗れない。
それどころか、普段のランニングだって思うようにできない。
せっかくトライアスロンを目指すことになったのに、いきなり冬眠である。
ロードバイクは部屋の中で出番を待っている。
私も同じように、春が来るのを待っていた。
そして、ようやく雪が解け始めた翌年の春。
私はYさんたちトライアスロン軍団と一緒に練習することになった。
最初は、それほど無茶な練習ではなかった。
短い距離を走ったりする感じ。
「これなら何とかなるかな」
そんな気持ちだった。
ところが、ある日の練習で突然、
「今日は40kmラン走るぞ」
と言われた。
「……40km?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
私はフルマラソンを走っている。
だから40kmという距離を何度か走ったことはある。
でも、それは大会で走る距離だ。
練習で走る距離ではない。
少なくとも、私にとっては。
それでも、みんなが走るという。
仕方がない。
私もついていくことにした。
走り始めた時は、まだ何とかなった。
ところが、20kmを超え、30km近くになると、だんだん様子がおかしくなってきた。
お腹が空いてくる。
というより、体に力が入らない。
当時は今ほど補給について考えていなかった。
「まあ、走れば何とかなるだろう」
くらいに思っていた。
ところが、何とかならない。
明らかにエネルギーが切れている。
いわゆるハンガーノック状態である。
足が動かない。
それでも、みんなは普通に走っている。
私は必死についていった。
「なんで俺、こんなことやってるんだ……」
そんなことを思いながら、何とか40kmを走り切った。
ゴールした時には、もうヘロヘロ。
練習というより、ちょっとした罰ゲームだった。
「こんなことを毎回やるのか?」
そんな不安さえ感じた。
ところが――
その後に出場したハーフマラソンで、妙なことが起きた。
なんと自己ベストを4分も更新してしまった。
「え?」
自分でも驚いた。
ついこの間まで40km走って死にそうになっていた男が、ハーフマラソンで自己ベストを更新している。
もちろん、40km走ったことだけが理由ではないだろう。
それまでのマラソンの練習や積み重ねもあった。
でも、自分の中では、
「もしかして、あの40kmって意味があったのか?」
という気持ちも少し出てきた。
少なくとも、トライアスロンの練習について、
「思っていたより何とかなるかもしれない」
と思い始めた。
そして、いよいよ次の問題に取り掛かる。
ロードバイクである。
冬の間、部屋の中で眠っていたロードバイクを、ついに外へ出す。
ここから本格的に自転車の練習が始まる。
もちろん私は、ロードバイクの乗り方なんてよく分かっていない。
ギアの使い方もよく分からない。
どのくらいのスピードで走ればいいのかも分からない。
そもそも、これから何十キロも自転車で走るということ自体、まだ現実味がなかった。
ただ一つ分かっていたのは、
「これまでのランニングとは、何か世界が違うぞ」
ということだった。
そして、私は最初のロードバイクで、いきなり転ぶ。
「立ちごけ」というやつである。
バイク専用のシューズをペダルに固定するので、最初はペダルを回すこともできない。
トライアスロン軍団にいきなり笑われてしまった。
でも、最初は30km程度の練習。
まだこの時の私は、
「トライアスロンを目指している」
というより、
「Yさんたちに付いていったら、何か凄いことが始まるかも」
くらいの感覚だった。
気がつけば私は、そのトライアスロンの世界から簡単には抜けられなくなっていた。
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