羽幌を過ぎたあたりからだったと思う。
日本海からの風が、左側からまともに吹いてきた。
最初は、
「風が強いな」
くらいだった。
ところが、走っても走っても風が止まらない。
ペダルを回している。
確かに回している。
でも、なかなか前に進まない。
海岸線なので、風を遮るものもほとんどない。
このあたりから、記憶がかなり薄くなっている。
どこを走ったのか。
何を考えていたのか。
正直、あまり覚えていない。
ただ、風が強かったこと。
そして、ひたすら前に進もうとしていたこと。
それだけは覚えている。
当時の私は、ロングトライアスロンの経験なんてない。
自分の身体が今どういう状態なのかも、よく分かっていなかった。
疲れているのか。
エネルギーが足りないのか。
風に負けているだけなのか。
そんなことを判断する知識もなかった。
今になって振り返ると、
「あれは、ハンガーノックを何回も繰り返していたんじゃないか?」
と思う。
急に力が出なくなる。
身体が重くなる。
何となくぼんやりする。
それでも少し走っていると、また何とか動く。
そして、また苦しくなる。
今なら、そんな身体の変化をある程度は分かる。
でも、このときは分からない。
ただ、
「きついな」
くらいだったと思う。
そして、止まるという発想もなかった。
自転車を降りてしまったら、もう走り出せないような気がする。
だから、とにかくペダルを回す。
一回。
また一回。
それだけだった。
いつの間にか、周りの選手も少なくなっていた。
前にもいない。
後ろにもいない。
スタート直後は、抜いたり抜かれたりしていた。
それが、いつの間にか一人になっていた。
海岸線を一人で走る。
左から風が吹く。
身体は重い。
それでも進む。
少しずつでも進む。
それなら、それでいい。
「とにかく前へ行こう」
そんなことだけを考えていたような気がする。
そして、ようやく幌延まで来た。
ここで折り返す。
しかし、折り返したからといって、ゴールが近いわけではない。
まだ先がある。
天塩方面へ戻る。
その先を走って、ようやくバイクのゴールへ戻っていく。
「まだこんなにあるのか……」
正直、そう思った。
それでも、まだ午後だった。
空は明るい。
夜ではない。
だから、走らなければならない。
ここで止まる理由はない。
いや、身体としては止まりたかったのかもしれない。
でも、まだ明るい。
道路も見えている。
だったら進める。
そんな感じだった。
何km走ったのかも、よく分からなくなってくる。
身体のあちこちが痛い。
それでもペダルを回す。
そして、ようやく残り20kmほどになった。
普通なら、
「あと20kmか。もう少しだ」
となるところだろう。
でも、このときは違った。
20kmもある。
もう身体の中が、ほとんど空っぽだった。
本当にバイクを降りてしまいたい。
そんな気持ちも出てきた。
この先、本当に走れるのか。
そもそも、あと20kmも自転車に乗れるのか。
不安だった。
それでも、またペダルを回す。
痛い。
苦しい。
身体が重い。
それでも回す。
一回、一回、ペダルを回す。
ここまで来たら、もう「速く走ろう」とは思っていなかったと思う。
ただ、
バイクのゴールまで行く。
それだけだった。
そして、その頃には左膝の裏にも、はっきりとした痛みが出ていた。
あと20km。
この20kmを終えれば、自転車は終わる。
でも、その先には、
42km近いランニングが待っている。
そう考えると、
「俺、本当に走れるのか?」
という不安しかなかった。
それでも、自転車はまだ終わっていない。
だから、とにかく前へ進んだ。
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