21.5kmの関門を通過した。
ここから先は、とにかく時間との戦いだった。
制限時間は14時間。
しかも、ランは41.8kmある。
バイクを終えた時点で、すでにかなり時間を使っている。
だから、ゆっくり歩く余裕はない。
目安は、7分/km前後。
でも、身体はそんな計算通りには動いてくれない。
左膝が痛い。
身体も重い。
夕方になって気温が下がってくる。
それでも走る。
暗くなっていく。
道路の先が見えにくくなる。
そして、27.7kmの関門。
ここも何とか通過した。
「まだ行ける」
そう思った。
でも、楽になったわけではない。
むしろ、身体はどんどんきつくなっていく。
雨も降り始めた。
小雨だったと思う。
でも、疲れ切った身体には、その雨が冷たかった。
濡れる。
冷える。
膝も痛い。
それでも進む。
35.8km付近にも関門がある。
そこを通過した記憶は、全くない。
たぶん、もうそれどころではなかったのだと思う。
そして、残り6kmほど。
ここまで来た。
あと6km。
マラソンなら、もうゴールタイムを計算できる距離だ。
でも、このときは違った。
真っ暗すぎてゴールまでの距離が分からない。
当時はGPSも無いので距離表示もよく分からない。
時計を見る。
14時間に間に合うのかどうかも、正確には分からない。
「あと何kmなんだ?」
そんなことを考えながら走っていた。
いや、走っていたというより、前へ進んでいた。
暗い。
雨もある。
周りにランナーの姿もほとんどない。
「俺、何でこんなところを走っているんだ?」
そんな気持ちになった。
朝、増毛で海に入った。
泳げないのに2,000m泳いだ。
そこから自転車で200km以上走った。
そして今、夜の道路を走っている。
何でこんなことをしているんだろう。
でも、もう戻ることもできない。
前へ進むしかない。
しばらくすると、羽幌の街の灯りが見えてきた。
道路沿いに人がいる。
「頑張れ!」
「あと少し!」
声が聞こえる。
でも、ゴールがどこなのか分からない。
時計を見る。
制限時間まで、20分を切っていた。
「まずい」
急に焦った。
もしかしたら、間に合わないかもしれない。
それまで淡々と進んでいたのに、急にスピードを上げた。
いや、上げたつもりだった。
足は思うように動かない。
それでも進む。
コースの係員に聞いた。
「ゴールまで、あとどのくらいですか?」
係員は、
「ここを曲がって、まっすぐだよ」
と教えてくれた。
大きな道路を曲がる。
その先に、少し明るい場所が見えた。
ゴールが近いのかもしれない。
でも、まだ分からない。
そして、まっすぐ走る。
その先に、人影が見えた。
よく見ると、F先生だった。
「えっ、こんなに近くに居たのか」
あまりにもコースが暗くて近くにランナーがいることさえわからない。
思ったよりも、F先生との差は大きくなかった。
その先にも、何人か選手がいる。
そして、その向こうにゴールが見えた。
時計を見る。
残り時間は、10分を切っている。
でも、まだ間に合う。
最後の力を振り絞る。
ゴールへ向かう。
そして、ようやくゴールラインを越えた。
14時間の制限時間。
私の記録は、
13時間53分54秒。
制限時間の約6分前だった。
ゴールには、先輩たちがいた。
「よくやった」
そう言ってくれた。
頭をポンと叩かれた。
その瞬間、ようやく終わったことが分かった。
2,000mのスイム。
200.9kmのバイク。
41.8kmのラン。
合計244.7km。
25mも泳げなかった。
自転車にもまともに乗れなかった。
トライアスロンのことも、ほとんど知らなかった。
それでも、なぜか最後まで来てしまった。
そして、この日まで私は、
「トライアスロンとは何なのか」
なんて、ほとんど分かっていなかった。
ただ一つ分かったことがある。
あの日、増毛の海に入ったことで、私の人生に新しいものが一つ増えてしまった。
これが、私のトライアスロンの始まりだった。
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