トライアスロンへの道 第30話 ゴールまで何km

トライアスロンへの道

21.5kmの関門を通過した。

ここから先は、とにかく時間との戦いだった。

制限時間は14時間。

しかも、ランは41.8kmある。

バイクを終えた時点で、すでにかなり時間を使っている。

だから、ゆっくり歩く余裕はない。

目安は、7分/km前後。

でも、身体はそんな計算通りには動いてくれない。

左膝が痛い。

身体も重い。

夕方になって気温が下がってくる。

それでも走る。

暗くなっていく。

道路の先が見えにくくなる。

そして、27.7kmの関門。

ここも何とか通過した。

「まだ行ける」

そう思った。

でも、楽になったわけではない。

むしろ、身体はどんどんきつくなっていく。

雨も降り始めた。

小雨だったと思う。

でも、疲れ切った身体には、その雨が冷たかった。

濡れる。

冷える。

膝も痛い。

それでも進む。

35.8km付近にも関門がある。

そこを通過した記憶は、全くない。

たぶん、もうそれどころではなかったのだと思う。

そして、残り6kmほど。

ここまで来た。

あと6km。

マラソンなら、もうゴールタイムを計算できる距離だ。

でも、このときは違った。

真っ暗すぎてゴールまでの距離が分からない。

当時はGPSも無いので距離表示もよく分からない。

時計を見る。

14時間に間に合うのかどうかも、正確には分からない。

「あと何kmなんだ?」

そんなことを考えながら走っていた。

いや、走っていたというより、前へ進んでいた。

暗い。

雨もある。

周りにランナーの姿もほとんどない。

「俺、何でこんなところを走っているんだ?」

そんな気持ちになった。

朝、増毛で海に入った。

泳げないのに2,000m泳いだ。

そこから自転車で200km以上走った。

そして今、夜の道路を走っている。

何でこんなことをしているんだろう。

でも、もう戻ることもできない。

前へ進むしかない。

しばらくすると、羽幌の街の灯りが見えてきた。

道路沿いに人がいる。

「頑張れ!」

「あと少し!」

声が聞こえる。

でも、ゴールがどこなのか分からない。

時計を見る。

制限時間まで、20分を切っていた。

「まずい」

急に焦った。

もしかしたら、間に合わないかもしれない。

それまで淡々と進んでいたのに、急にスピードを上げた。

いや、上げたつもりだった。

足は思うように動かない。

それでも進む。

コースの係員に聞いた。

「ゴールまで、あとどのくらいですか?」

係員は、

「ここを曲がって、まっすぐだよ」

と教えてくれた。

大きな道路を曲がる。

その先に、少し明るい場所が見えた。

ゴールが近いのかもしれない。

でも、まだ分からない。

そして、まっすぐ走る。

その先に、人影が見えた。

よく見ると、F先生だった。

「えっ、こんなに近くに居たのか」

あまりにもコースが暗くて近くにランナーがいることさえわからない。

思ったよりも、F先生との差は大きくなかった。

その先にも、何人か選手がいる。

そして、その向こうにゴールが見えた。

時計を見る。

残り時間は、10分を切っている。

でも、まだ間に合う。

最後の力を振り絞る。

ゴールへ向かう。

そして、ようやくゴールラインを越えた。

14時間の制限時間。

私の記録は、

13時間53分54秒。

制限時間の約6分前だった。

ゴールには、先輩たちがいた。

「よくやった」

そう言ってくれた。

頭をポンと叩かれた。

その瞬間、ようやく終わったことが分かった。

2,000mのスイム。

200.9kmのバイク。

41.8kmのラン。

合計244.7km。

25mも泳げなかった。

自転車にもまともに乗れなかった。

トライアスロンのことも、ほとんど知らなかった。

それでも、なぜか最後まで来てしまった。

そして、この日まで私は、

「トライアスロンとは何なのか」

なんて、ほとんど分かっていなかった。

ただ一つ分かったことがある。

あの日、増毛の海に入ったことで、私の人生に新しいものが一つ増えてしまった。

これが、私のトライアスロンの始まりだった。

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