北海道マラソン2023レポート 酷暑とスコールの中で我慢のレース

大会レポート
  • 開催日: 2023年8月27日
  • 気象条件: スタート時30℃(日中最高35.6℃)、後半に激しい雷雨・土砂降り
  • 制限時間: 6時間

序章:並々ならぬ思いで挑んだ、リベンジの夏

前年の北海道マラソンは、サロマ湖ウルトラマラソンの中止によるモチベーション低下が響き、練習不足のまま4時間17分という悔しいタイムで終わった。頑張りどころを忘れて対応できなかった自分が情けなかった。

「もう一度、あの輝きを取り戻す。」

その一心で、今年はインターバル練習や閾値走を中心に、自分を徹底的に追い込んできた。

  • 5月: 300km
  • 6月: 358km
  • 7月: 313km

3ヶ月連続で月間300kmオーバーを達成したのは、長いアスリート人生でも初の経験だった。幸いにも故障はなく、積み上げた練習量には確固たる自信があった。しかし、2023年の札幌の夏は、私たちの想像を絶する「異常」な牙を剥いた。

前日〜スタート:札幌の観測史上最高。衝撃の「30℃スタート」

8月の札幌は30℃超えの日が22日間、最高気温36.3℃を記録する狂ったような酷暑が続いた。前日も35.6℃。ゼッケンを取りに行くだけで体力を奪われる過酷な環境の中、「今まで頑張ってきた自分を信じるしかない」と言い聞かせた。

当日、大通公園から駅前通りに入った瞬間、目に飛び込んできたのは「30℃」という信じられないスタート気温の表示だった。数ある日本のマラソン大会でも前代未聞の光景。

徹底した練習の貯金があったからこそ、この異常事態にアドレナリンを抑え、冷静な「安全運転」に徹することを即座に決意した。Dブロックからスタートラインを越えたのは2分34秒後。ここから、耐え忍ぶ21kmの旅が始まった。

前半戦:試される大地。息苦しいトンネルと、捨てたプライド

【スタート〜5km】30分29秒(ネット27:55)

5分30秒のペースを厳守し、身体を襲う熱気を感じながら走り出す。最初の給水は混雑でコップに届かなかったが、長い給水スペースの最後尾でようやく水を確保。軽く喉を潤し、残りは即座に首筋にかけて体温上昇を防ぐ。

【5km〜10km】57分22秒(ラップ26:53)

平岸通の緩やかな下り。例年なら自然とペースが上がるポイントだが、今年は絶対に上げない。いや、暑さで足が思うように動かないのが現実だった。 最大の難所は「創成トンネル」。中は驚くほどの高湿度で、ムシムシとした空気が肺を圧迫する。頭がクラクラし、自分の体ではないようなフワフワした感覚のまま、何とかトンネルをクリアした。

【10km〜15km】1時間24分(ラップ26:52)

トンネルを抜けた高架下には、すでに力尽きてリタイアしているランナーが続出していた。「俺も……」と羨む気持ちが一瞬よぎるほど苦しかったが、「後半に雨が降る」という予報だけを信じて必死に心を繋ぎ止める。 例年ならスタートのロスを取り戻そうと焦る区間だが、今年はそれさえも綺麗に捨てた。北24条通りの大声援をクールに受け流し、5分半のペースを死守する。

転換点:20km地点、新川通に響く雷鳴と「恵みのスコール」

【15km〜20km】1時間51分(ラップ27:29)

新川通へと向かう道中、とにかく体を重く感じながらもクールに徹する。待ち望んだ雨の気配がようやく空を覆い始めた。

【20km〜25km】2時間20分(ラップ29:02)

20kmを過ぎた瞬間、ついに雨が降り注いだ。それは優しい雨ではなく、雷鳴とともに音を立てて叩きつけるような「激しい土砂降り(スコール)」だった。


「やった、これで生き返る……!」

頭から流れる水、濡れて肌に張り付くシャツ、グショグショと音を立てるシューズ。普段の練習なら最悪のコンディションだが、今日に限ってはこれ以上ない「命の恵みの雨」だった。 身体の深部を冷やすため、給水所の水はすべて熱い首元へかける。心理的な余裕が戻り、さっきまでクールにすましていた自分が、沿道の応援に笑顔で手を振り返すようになっていた。 前田森林公園のエイドではコーラを一口すする。そして受け取った「雪玉」を帽子の中に滑り込ませた。

前年の25km地点では今にも歩きそうなほど失速していたが、今年は違う。「まだ走れる。ここからが本当のマラソンだ」と、闘志が完全にリバイバルした。

後半戦:我慢が作ったスタミナの貯金、怒涛のビルドアップ

【25km〜30km】2時間49分(ラップ28:22)

一旦止みかけた雨が、こちらの体温が上がるのを計ったかのように再び激しく降ってくる。応援の人には申し訳ないが、「もっと降れ」と心の中で叫びながら、鬼門の新川通を一度も歩くことなく駆け抜けた。

【30km〜35km】3時間17分(ラップ28:38)

長雨のおかげで体温は完全にコントロール下にあった。残り7km。 頭の中で冷徹に計算する。「残り7kmを42分。キロ6分を超えなければ、4時間は切れる」。 しかし、ギリギリのサブ4では終わらせたくない。1分でも、2分でも余裕を持ってゴールしたい。前半に5分半で我慢し続けた「スタミナの貯金」を、ここで一気に解放した。

【35km〜40km】3時間44分(ラップ26:44)

自然とギヤが上がり、ペースは5分30秒から5分20秒へ。そして40km手前、今日一番のスピードとなる「キロ5分05秒」までビルドアップ。 後半のこの局面で他をごぼう抜きにする走りができている嬉しさに、思わず喜びの激しい吐息が漏れた。 北大構内の素晴らしい応援のエネルギーを身体に浴び、険しい表情が一瞬で緩む。

栄光のゴール:3時間56分。悔しさを燃料に、次なるステージへ

北大を抜け、ハリボテの旧道庁をスルーして再び駅前通りへ。真剣な表情に戻り、最後の直線をゴールへとまっしぐらに突き進んだ。

  • ゴールタイム:3時間56分(後半11分34秒のラストスパート)


ゴール時の気温計は「31℃」を示していたが、前半の鉄の自制心と、後半の雨のコントロールにより、体感気温は25℃くらいに思えるほどの落ち着いたフィニッシュだった。

結果だけを見れば、前半に徹底的に我慢し、後半にビルドアップしてサブ4を奪還するという「理想的なネガティブスプリット」だった。しかし、時間が経つにつれ、スタート前に目指していた高い目標(自己ベスト更新)に届かなかった悔しさが、フツフツと胸の奥から込み上げてくる。

50代半ば。世間は落ち着く年齢と言うかもしれないが、「10年ぶりの自己ベスト更新」という大それた目標を私はまだ諦めていない。環境が違えば必ず証明できるはずだ。その日を信じて、この日ばかりは、しばらく断っていたアルコールで最高の乾杯をし、酷使した身体を深く甘やかした。

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