今まで参加したトライアスロンは、すべてプールを使った大会だった。
ところが、今度は海で泳ぐ。
しかも、ショートタイプの大会に出た経験すらない。
マラソンに例えるなら、10kmを完走したばかりの人が、いきなり100kmのウルトラマラソンに出るようなものだ。
今考えると、かなり無謀だったと思う。
ただ、当時の北海道で海で開催されるトライアスロン大会は、このオロロンライン国際トライアスロン大会しか知らなかった。
わざわざ飛行機に乗って、他県の大会に出るほどの予算も時間もない。
そう考えると、当時の私には、
「244kmのトライアスロンに出る」
という選択肢しか残っていなかったのかもしれない。
参加に必要な書類は揃った。
身体の検査も終わった。
練習も、それなりにやった。
……それなりに、である。
しかし、大会前になると、次々と不安が出てきた。
先輩たちから聞く話は、驚くというより、
「本当かなぁ?」
と思うものも多かった。
そもそも、海で泳ぐ大会が初めて。
ウェットスーツを着て泳ぐ。
そして、そのウェットスーツを脱いでバイクに乗り換える。
これも初めて。
バイクは約200km。
その間の給水や補給も、どうするのかよく分からない。
先輩たちからは、
「給水所でボトルごと交換するから、自分でボトルを持って走らなくてもいい」
と教えてもらった。
なるほど。
そういう仕組みなのか。
しかし、先輩たちはさらに、
「200km、基本的には自転車から降りないで補給する」
と言う。
本当なのだろうか。
200kmも自転車から降りずに走る?
その間に食べたり飲んだりする?
私には想像もつかなかった。
まあ、先頭になることは一瞬たりともない。
おそらく私は最後の方を走ることになる。
だったら、周りの選手を見ながら、同じようにやればいい。
そう考えるしかなかった。
そもそも、今まで経験したことのない距離である。
完走できるかどうかだって、半々くらいの気持ちだった。
だから大会一週間前からは、ほとんど練習をしなかった。
今さら慌てて練習しても仕方がない。
それよりも、風邪をひいたり、体調を崩したりしないことの方が大事だ。
食事をして、睡眠を取る。
身体の調子を整える。
そして、静かに大会の日を待った。
泳げなかった男が、泳げるようになった。
ロードバイクにも乗れるようになった。
200km近い距離も走った。
それでも、最後まで、
「本当にこれで大丈夫なのだろうか」
という気持ちは消えなかった。
そしてついに――
オロロンライン国際トライアスロン大会が、開幕の時を迎えようとしていた。

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