泳げるようになって、海での練習も始まった。
すると今度は、バイクの練習も本格的になっていった。
それまでにも何度か自転車には乗っていた。
しかし、トライアスロンの自転車は普通の自転車ではない。
ロードバイクである。
見た目からして、普通の自転車とは違う。
細いタイヤ。
曲がったハンドル。
そして、何より困ったのがペダルだった。
トライアスロンをやる人たちは、シューズをペダルに固定している。
いわゆるビンディングペダルだ。
靴とペダルが「カチッ」とくっつく。
走っているときには便利なのだが、乗り始めたばかりの私にとっては、これがなかなかの難関だった。
自転車にまたがる。
ペダルに足を乗せる。
ところが、うまく踏み出せない。
ようやく走り出したと思ったら、今度は足を外すのがうまくいかない。
「これ、どうやって乗るんだ?」
そんな状態だった。
周りの人たちは、何事もなかったようにスイスイ走っていく。
私は自転車の上で、あたふたしている。
感覚としては、自転車というよりスノーボードに乗っているようだった。
それでも、何度か乗っているうちに、少しずつ走れるようになってきた。
最初の頃は、サイクリングロードを30~40km程度。
速く走るというより、とにかくロードバイクに慣れることが目的だった。
しかし、私がロードバイクに慣れるのを待ってくれるほど、練習は甘くなかった。
少し乗れるようになると、今度は一般道へ出る。
一般道をロードバイクで走るのは、これまた勇気がいる。
自転車は基本的に車道の左側を走る。
歩道を走れる場合もあるが、30km/hを超えるような自転車で、歩行者優先の歩道を走るのは現実的ではない。
段差もある。
車も来る。
当然、怖い。
だから私たちは、できるだけ交通量が少なく、歩行者もほとんどいない田舎道を走った。
ところが、そういう場所には、別の問題がある。
坂だ。
ある日の練習では、ゴルフ場のあるような、アップダウンの続く道を走ることになった。
ロードバイクに乗るだけでも精一杯なのに、今度は坂である。
前を走る人たちは、坂道でもどんどん進んでいく。
私はというと、見る見るうちに離されていく。
そして、ある坂で完全に心が折れた。
ようやく頂上までたどり着いたところで、先に待っていた先輩に言った。
「よく、あんな坂をスイスイ登れますね」
すると先輩から返ってきた言葉が、
「ペダルを押してばっかりだから登れないんだろ!」
だった。
……え?
自転車のペダルって、押すものじゃないのか?
私の中では、ペダルは上から下へ踏み込むものだった。
ところが、シューズがペダルに固定されている。
ということは、下へ踏むだけではない。
上へ引くこともできる。
さらに、ペダルは円を描いて回っている。
一周の中で、力をかける場所を考えながら回す。
そんなことを教えてもらった。
なるほど。
……と言いたいところだが、実際にやってみると、これがまた難しい。
今まで普通の自転車でやっていた「踏む」という動作とは、まるで違う。
それでも何度も走っているうちに、少しずつ感覚が分かってきた。
ロードバイクに乗る。
坂を登る。
ペダルを回す。
少しずつ、できることが増えていった。
ただし。
私ができることが増えるのと同じくらいの勢いで、練習距離も増えていった。
最初は30~40kmだった。
それが、いつの間にか100kmを超える。
さらに160km、180km。
本番のバイクは約200kmである。
「本番と同じくらい走っておけば大丈夫だろう」
そんなことを考えていたわけではない。
そもそも、私は何をどれくらい練習すればいいのか、よく分かっていなかった。
ただ、毎週のように先輩たちについて走っていた。
そして気がつけば、ロードバイクに乗ること自体は、以前ほど大変ではなくなっていた。
……しかし、練習はここからさらに変わっていく。
距離が伸びるだけではなかった。
今度は、速さまで求められるようになったのである。
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