トライアスロンへの道 第22話 スイムスタート

トライアスロンへの道

号砲が鳴った。

選手たちが一斉に海へ入っていく。

私も遅れないようについていく。

いよいよ始まった。

2,000メートルのスイムだ。

これまで私は、プールで2,000メートル泳いだことはある。

海でも練習した。

だから、泳げる。

……はずだった。

ところが、スタートしてすぐに、その考えが甘かったことに気づいた。

まず、人が多い。

前にも後ろにも選手がいる。

泳ぎながら人とぶつかる。

手が当たる。

足が当たる。

ゴーグルにも何かが当たった。

一瞬、何が起きたのか分からない。

そして、海なので底が見えない。

当然、足を着くこともできない。

プールなら、どうしても苦しくなったら立てばいい。

実際、これまでの練習では何度も足を着いた。

ところが海では、それができない。

「まずい……」

そう思った瞬間、急に怖くなった。

呼吸が乱れる。

練習ではできていたはずのクロールが、うまくいかない。

顔を横に向けて息を吸おうとする。

海水が入る。

むせる。

また泳ぐ。

また息苦しくなる。

何とか呼吸をしようとすると、今度は方向が分からなくなる。

まっすぐ泳いでいるつもりなのに、どこへ向かっているのか分からない。

プールには壁がある。

レーンがある。

底も見える。

泳いでいれば、何となく自分の位置が分かる。

海には、それがない。

しかも私は、海を泳ぐ競技そのものが初めてだった。

「これ、どうすればいいんだ?」

そんなことを考えながら泳いでいた。

周りの選手はどんどん先へ行く。

私は最初から遅い。

当然、一番後ろのほうになる。

それでも、何とか泳ぎ続ける。

ウェットスーツのおかげで身体は沈まない。

これはありがたかった。

もしウェットスーツがなかったら、もっと大変だったと思う。

それでも、海の波がある。

波が来るたびに呼吸のタイミングが狂う。

練習では、

「3回クロールして、1回呼吸」

くらいの感じで泳いでいた。

左右交互に呼吸することもできるようになっていた。

ところが、本番の海ではそんなことをやっている余裕がない。

2回クロールして、息を吸う。

また2回。

とにかく苦しくならないように呼吸する。

それでも、なかなかうまくいかない。

そして、もう一つ困ったことがあった。

方向だ。

前を見るためには、顔を上げなければならない。

顔を上げると身体が沈む。

泳ぎが止まる。

また方向を確認する。

そして泳ぐ。

また曲がる。

どうやら私は、かなりジグザグに泳いでいたらしい。

「ちゃんと前に進んでいるんだろうか?」

そんな不安まで出てくる。

それでも、戻るわけにはいかない。

とにかく前へ進む。

泳ぐ。

息をする。

また泳ぐ。

その繰り返しだった。

しばらくすると、少しずつ周囲の選手が減ってきた。

もちろん、私が速くなったわけではない。

多くの選手が先へ行ってしまっただけだ。

気がつけば、周りにはほとんど人がいない。

後ろを見る余裕もない。

ただ、前へ進む。

そんなときだった。

ふと、横を見ると、誰かが近づいてきた。

「おっ、まだ誰かいる」

そう思った。

ところが、その選手の泳ぎを見て、私はさらに驚くことになる。

私が必死になってクロールをしている横を、

その人は、ゆっくりと泳いでいた。

しかも――

平泳ぎだった。

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