7月13日、トライアスロン本番まであと一か月。
ついに2000メートルを68分で泳げるようになった。
オロロンライン・トライアスロンのスイム制限時間は70分。
これで、プールでは何とか制限時間内に泳げる目処が立った。
そして、その5日後。
7月17日。
私は初めて海で泳ぐことになった。
場所は海水浴場。
同じチームのメンバーとの海水浴キャンプだった。
ただ、その前に一つ。
私はウェットスーツを持っていた。
フルオーダーである。
トライアスロンの大会では、安全面からウェットスーツの着用が義務付けられることが多い。
先輩に相談すると、
「シロモトが絶対いいぞ」
と言われた。
そこで、言われるがままにオーダーした。
少々値は張った。
しかし、身体にぴったり合わせて作るフルオーダー。
サイズも問題ない。
動きにも問題ない。
準備は万端だった。
……ただし。
このウェットスーツを注文した頃、私はまだ50メートル泳げるかどうか、というレベルだった。
つまり、
「海で2000メートル泳ぐためのフルオーダーウェットスーツを作った男」
の泳力が、
「50メートル泳げるかどうか」
だったのである。
今考えると、かなり気が早い。
でも、そのときは何とも思っていなかった。
スイミングスクールに通えば泳げるようになると信じ切っていたから。
結果オーライだったけど(笑)
海で泳ぐにはウェットスーツがいる。
だから作る。
ただ、それだけだった。
そして、そのウェットスーツが出来上がる頃には、なぜか2000メートル泳げるようになっていた。
準備のほうが先に進み、あとから本人の泳力が追いついてきたようなものだった。
さて、初めての海水練習である。
海水浴キャンプということで、まずはバーベキュー。
軽く腹を満たして、水分も取る。
そして、いよいよウェットスーツを着る。
黒いウェットスーツに身を包む。
なんだか一気にトライアスリートらしくなった。
……泳力はともかく。
恐る恐る海に入った。
ところが、海に入った瞬間に分かった。
プールと海では、まったく違う。
まず、波がある。
当たり前のことなのだが、プールしか知らない私には、この「当たり前」が大問題だった。
せっかくスイミングスクールで覚えた息継ぎが、波に合わせるとまともにできない。
プールでは、3回クロールして1回息継ぎ。
左右交互に呼吸する。
それが、海では崩れた。
2回クロールして1回息継ぎ。
しかも、片側だけ。
波が来る。
息継ぎをしようとする。
顔を上げる。
そこに波が来る。
「ゴボッ……」
まともに呼吸できない。
それでも泳ぐ。
また波が来る。
また苦しい。
3週間前までは、そもそも息継ぎができなかったのだから、文句を言っても仕方がない。
そう思うことにした。
ところが、意外なこともあった。
ウェットスーツを着て海で泳いでみると、思っていたより楽だった。
身体が沈まない。
むしろ、浮く。
プールでは、身体が沈まないように余計な力を使っていた。
その力が、ウェットスーツを着くことでかなり減る。
泳ぎ方そのものはボロボロなのに、身体は意外と前に進む。
「これは、何とかなるかもしれない」
そう思った。
ただし、海にはもう一つ、プールにはない問題があった。
泳ぐ方向が分からない。
プールにはコースロープがある。
底にはラインがある。
壁もある。
海には、そんなものはない。
真っすぐ泳いでいるつもりでも、いつの間にか右へ、左へ。
実際にはかなり蛇行している。
海で泳ぐというのは、ただ長く泳げればいいわけではなかった。
プールで2000メートル泳げるようになった。
だから、海でも2000メートル泳げる。
そんな単純な話ではなかった。

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