トライアスロンへの道 第14話 海で泳ぐということ

トライアスロンへの道

7月13日、トライアスロン本番まであと一か月。

ついに2000メートルを68分で泳げるようになった。

オロロンライン・トライアスロンのスイム制限時間は70分。

これで、プールでは何とか制限時間内に泳げる目処が立った。

そして、その5日後。

7月17日。

私は初めて海で泳ぐことになった。

場所は海水浴場。

同じチームのメンバーとの海水浴キャンプだった。

ただ、その前に一つ。

私はウェットスーツを持っていた。

フルオーダーである。

トライアスロンの大会では、安全面からウェットスーツの着用が義務付けられることが多い。

先輩に相談すると、

「シロモトが絶対いいぞ」

と言われた。

そこで、言われるがままにオーダーした。

少々値は張った。

しかし、身体にぴったり合わせて作るフルオーダー。

サイズも問題ない。

動きにも問題ない。

準備は万端だった。

……ただし。

このウェットスーツを注文した頃、私はまだ50メートル泳げるかどうか、というレベルだった。

つまり、

「海で2000メートル泳ぐためのフルオーダーウェットスーツを作った男」

の泳力が、

「50メートル泳げるかどうか」

だったのである。

今考えると、かなり気が早い。

でも、そのときは何とも思っていなかった。

スイミングスクールに通えば泳げるようになると信じ切っていたから。

結果オーライだったけど(笑)

海で泳ぐにはウェットスーツがいる。

だから作る。

ただ、それだけだった。

そして、そのウェットスーツが出来上がる頃には、なぜか2000メートル泳げるようになっていた。

準備のほうが先に進み、あとから本人の泳力が追いついてきたようなものだった。

さて、初めての海水練習である。

海水浴キャンプということで、まずはバーベキュー。

軽く腹を満たして、水分も取る。

そして、いよいよウェットスーツを着る。

黒いウェットスーツに身を包む。

なんだか一気にトライアスリートらしくなった。

……泳力はともかく。

恐る恐る海に入った。

ところが、海に入った瞬間に分かった。

プールと海では、まったく違う。

まず、波がある。

当たり前のことなのだが、プールしか知らない私には、この「当たり前」が大問題だった。

せっかくスイミングスクールで覚えた息継ぎが、波に合わせるとまともにできない。

プールでは、3回クロールして1回息継ぎ。

左右交互に呼吸する。

それが、海では崩れた。

2回クロールして1回息継ぎ。

しかも、片側だけ。

波が来る。

息継ぎをしようとする。

顔を上げる。

そこに波が来る。

「ゴボッ……」

まともに呼吸できない。

それでも泳ぐ。

また波が来る。

また苦しい。

3週間前までは、そもそも息継ぎができなかったのだから、文句を言っても仕方がない。

そう思うことにした。

ところが、意外なこともあった。

ウェットスーツを着て海で泳いでみると、思っていたより楽だった。

身体が沈まない。

むしろ、浮く。

プールでは、身体が沈まないように余計な力を使っていた。

その力が、ウェットスーツを着くことでかなり減る。

泳ぎ方そのものはボロボロなのに、身体は意外と前に進む。

「これは、何とかなるかもしれない」

そう思った。

ただし、海にはもう一つ、プールにはない問題があった。

泳ぐ方向が分からない。

プールにはコースロープがある。

底にはラインがある。

壁もある。

海には、そんなものはない。

真っすぐ泳いでいるつもりでも、いつの間にか右へ、左へ。

実際にはかなり蛇行している。

海で泳ぐというのは、ただ長く泳げればいいわけではなかった。

プールで2000メートル泳げるようになった。

だから、海でも2000メートル泳げる。

そんな単純な話ではなかった。

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